嘔吐して、仰臥して、昏々と

  うむ、昨日の私は酷い有様だった。朝から食欲も無く、水を飲むばかりな体たらく。床に仰臥して、虚ろな眼球で中空にガン飛ばしたり、涙目になったりした。夜になって、実家の窓から花火大会が見え、兄のチビッコたちがぞろぞろやってくるというので、電車で実家へ。

  眩暈と嘔吐感が酷くて、駅の雑踏でヨタリヨタと歩むに、後ろからこづかれるも、睨み返す気力も無く、奴の「チェッ!」という舌打ちを無感情に聞き流す。実家に辿り着き、大好きな餃子と五穀米を食べたのだが、食欲が無く皿の半分を腹に流し込み、自室で倒れこむように横になる。

  突然の嘔吐感に襲われて、便所に駆け込み、食ったものを吐き出す。入念にうがいして、口を袖で拭ったところにチビッコたちがやってくる。三人三様に「おじちゃーん!」と嬉嬉とした声、顔で飛びついてきた。最後に、飛び込んできた一番下の男の子は、「おじちゃん、今日は、何して遊ぶ?僕、ビー玉、持ってくるの忘れちゃったよ、こまったな」。などとのたもうた。うう。

  
  花火が始まり、部屋を暗くして鑑賞する。花火風が吹いており、吐き出される煙が光の向こう側になびく、絶好のシチュエーションだった。しかし、暗闇で、チビッコたちの歓声を聞き、眩き煌めき、そして拡がる光の輪っかを眺めていると、胸にこみ上げてくるものがあり、窒息気味になる。

  こっそりと自室に引き揚げて、深呼吸を何度も何度も繰り返して、再び床に仰臥した。ひしひしと涙が頬を伝い、思ほえず枕に向かって号泣しそうになりかけた時、チビの一人が「おじちゃん、花火見ないの?ミッキーの花火が上がったよ、ねえ?具合がわるいの?」

  私は、手のひらで顔を覆い、「いや、ちょっと眩暈がしてね、大丈夫だから見ておいで。そろそろ、ドカーン!、ドカーン!と大きな花火が始まるよ。去年は、怖くて眼をつぶってたよね。今年は、大きくなったんだから、しっかり見れるよね。とても綺麗だよ・・・」と応えた。チビくんが、怪訝にこちらを振り返りながら、部屋を出たのを見届けたところで、私は荷物を手早くまとめて、来訪を楽しみにしていたであろう母親に、「調子が悪いので帰るよ、すまんな」と告げ、こっそりと家を出た。

  再び駅の人込みをヨタリヨタと歩きながら、なんとか部屋に辿り着いた。荷物を放り出して、倒れるように床に転がる。疲れ果てた時、って涙もでないのな。しばらく微動だにせず、床に顔を押し付けて、じっとしていた。だがしかし、部屋の熱気に耐えられず、立ち上がり(非常な力が必要だったが立ち上がれるのなw)、窓を開けてまわった。残暑の熱と湿気を帯びた風が、部屋に大きく吹き込んできて、頬を吹き撫でる。

  それから、外出着のままに、蒲団に倒れこみ、そのまま昏々と眠った。

(本稿以上)
(本稿以上)