ライブドア問題〜エッジは、刑務所の塀の上だったのだろうか?①

真説 光クラブ事件 ―東大生はなぜヤミ金融屋になったのか―  ライブドア問題。平成18年3月13日、東証が、翌14日からの整理ポスト入り、及び4月14日の上場廃止を決定した。続く16日、電光石火のスピードで株式会社USEN*1との業務提携が発表され、ライブドア問題という観点からは、一段落ついた。マネーゲームは桜が咲き、散る時節まで続くだろうが・・・。*2そこで、ちょうど良いタイミングなので、今一度一連のライブドア問題について考えてみたい。

■奇妙な親和性
  ライブドア問題が、私の頭を悩ませていた。「カネで買えないモノはない」と豪語する人間=堀江貴文に対して、価値観の共有があったわけではない。正直、「たわけたことを抜かすトンデモヤロウだ!」という侮蔑をもって、彼を含むすべての現象を「意識的に」無視してきた。これは、一般的な人々と同様の姿勢であり、ことさらに強調すべきものではない。
  しかし、私は、問題発覚後、彼及び関係者に対して、言われなき親和性を感じてしまった。大袈裟でなく、ライブドア問題が放射する瘴気に、自分が築きあげてきた結界を破られて、自らが侵食されているという恐怖すら感じた。なぜか?私は、堀江と生年が同じである。しかし、その極めて単純な一致が、共時性シンクロニシティ)を招き寄せたのではないだろう。ましてや、好悪を超越した憐れみが生まれた、というのも考えにくい。
  私は、この親和性の正体を解明しようと、哲学的諸問題に対峙するが如き姿勢で、真剣に考えてきた。「下手な考え休むに似たり」とは言うけれど、下手は下手なりに考えてみるものだ。絡まった糸を解きほぐす、いくつかの手がかりが、脳裏に浮かんできた。例えば、まったく無関係の他者ではあるが、彼(及び彼ら)の栄華盛衰を目撃した同時代性。あるいは、大戦後の光クラブ事件を想起させるアプレゲールへの既視感覚。アプレゲールについてwikipediaから引用する。

日本で(アプレゲールを略して)「アプレ」という言葉が流行したのは、第二次世界大戦後である。戦前の価値観・権威が完全に崩壊した時期であり、既存の道徳観が欠落した無軌道な若者が大量に出現し犯罪事件も頻発した。また徒党を組んで愚連隊を作り、治安を悪化させた。このような暗黒面も含めて、「アプレ」と呼ばれるようになった。

  ここで、一連の問題をアプレゲールとして捉えるならば、その契機として価値観の転換点、それも人生観を一変させるほどに大きな転換点を明らかにしなければならない。前述、光クラブ事件の主人公、山崎晃嗣*3は第二次大戦に従軍して敗戦を経験したことが、契機となり得た。堀江たちが直面した契機、すなわち価値観の転換点は、なんだったのだろうか?私の「下手な考え」は、その時点で機能停止を起こし、茫漠とした苛立ちが頭を占有してしまった。

アリアドネの糸としての年表
  言語学者ソシュールが唱えた通時態とは、意味合いが異なるが、アプローチとして時間軸を採用することは有益である。私たちが、直面する事物・事象について、現在の把握可能な限定的現象を「アアである、コウである」、と捻くりまわしていても迷宮を抜け出すことはできない。もちろん、他人を説得・論破することは、可能であるかもしれない。しかし、自らが作り出した迷宮の自縄自縛からは、逃げられない。と、小難しい繰言を述べたが、端的に言うと「こういう現象が生じて悩んでしまっているよ。そうか!じゃあその時代背景を考えてみよう」ということだ。出てきたものが、こじつけ風味なアノマリー(偶然の一致)でも構わない。幽冥界を彷徨う中での拾い物なのだから。そこで、私はライブドア関連の年表を紐解いた。

1996年4月:オン・ザ・エッヂ設立
2000年4月:東証マザーズ上場
2004年2月:ライブドアに社名変更
     6月:近鉄球団買収に名乗りをあげる
2005年2月:ニッポン放送株式の33%超を東証ToSTNeT取引で取得
     4月:フジテレビと和解
     9月:『9.11』選挙に出馬、落選
     9月:ジャック・ホールディングスを子会社化(8月発表)
    12月:ダイナシティと資本・業務提携


2006年1月16日:東京地検特捜部がライブドア本社等を強制捜査
        23日:堀江ら四人が証券取引法違反で逮捕

  年表を紐解いてはみたもののいまいち判然としない。これを見てわかるのは、「ああ、世紀末に設立・上場したのだね」とか、「そういえば2000年問題なんてのがあったものだよね」ということ。理由は、簡単で比較するべき”背景年表”がないからである。次に、背景年表を絡めて、考えていくつもりであるが、上記年表をじっと睨むと、三つのポイントが浮かび上がってくると思う。読者も考えてみてください^^。

(本稿続く)

*1:ヒルズ族の兄貴分である宇野康秀社長が率いる会社。インターネットで番組を垂れ流すことが、すなわち「ネットと放送」の融合であるならば、それを一早く実現したと言われているのが、この株式会社USENである(出典:「けろやん辞典」)。

*2:ライブドア株は、3月13日終値66円が、3月31日終値106円へと推移している。

*3:東京大学在学中に金融会社を設立して、高利で貸付けを行った。東大在学中での起業という点で堀江と類似が認められるが、彼は復員後の再入学であり、大学三年時、既に27歳であった。三島由紀夫「青の時代」、高木彬光「白昼の死角」は、彼をモデルにした小説。