書評:飯嶋和一「汝 ふたたび故郷へ帰れず」:第二回、塗絵

  前回の続きだが、本題に入る前に小説について考察してみる。

  いわずもがなのことではあるが、小説の魅力は、語り尽くせず、とても深い。
  カテゴライズが無力であることは、重々に承知しているが、あえて「色分け」をしてみる(「分類」するという作業は、作者に対してではなく、小説に対しておこがましい作業である、と私は思ってしまいます)。  
  例えば、小説のプロット(=筋立て)で読ませる小説がある。
血湧き肉躍り、息もつかせず、固唾を飲みこませる冒険小説などがそうだ。皆さんも、睡眠薬代わりに寝転び軽く読み始めたら、寝てはいれずに立ち上がり、手に汗を握って、一気に読んでしまったよ!という経験をお持ちであろう。そんな小説である。
  次に、人物造形が売り物の小説がある。キャラがたつという言葉があるが、キャラクター小説と言い換えてもよいだろう。キャラクターはキティちゃんだけではない。さまざまな社会経験を積み、あるいはトラウマを背負った人間でも構わない。彼の育った環境、辿ってきた人生が昇華され、その結果生み出された性格や思考方法が克明に描かれた小説である。

鉄鼠の檻 (講談社ノベルス)  続いて、薀蓄小説というものもある。実生活においては、必ずしも必要ではない知識が、小説を読みながら学べる一石二鳥、儲けものの小説である。京極夏彦のレンガ本等を想像していただきたい。ただの赤レンガではなく、薀蓄が詰め込まれたレンガなのである。好奇心ある読者ならば、例え自分の関心が小さい分野の内容であったとしても、読むことにより興味分野の拡大への足がかりとも成り得る小説である。
  
  とりあえず、三色ほど小説を取り上げた。もちろん、小説の色は三色だけではない。また、小説は、各々が単色で存在して悠然と構える厚顔無恥な存在ではない。くどいようだが、小説は奥深いのである。(・・・続く)


p.s.
今回は、タイトルと無関係の話を展開してしまいました・・・。

私の読書歴に照らし合わせて、本文で色分けした小説を挙げてみます。
1.プロットで読ませる小説:
N・スティーヴンスン「クリプトノミコン」(全4巻)。一息に4冊読んでしまいましたよ。

2.キャラクター小説:
有栖川有栖<江神シリーズ>。「双頭の悪魔」で臨界点を迎えてしまったのか、続編が一向に発表されません。新作を早く読みたいです。

3.薀蓄小説:
先に述べた京極夏彦の<京極堂シリーズ>の他にも、高田崇史の<QEDシリーズ>があります。「QED 鎌倉の闇」がお勧めですよ。

皆さんも、自分のお気に入りの小説を「色分け」してみると、
新しい発見があるかもしれません。是非とも、お試しください。